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「危険だ」
「注意しろ」
「近寄るな」
「遠くからだ」
「包囲しろ」
地上人の声が沢山聞こえてきた。ようやく地上人が私の脱走を察知したか。すぐに銃弾がやってくるだろう。彼らは容赦しないだろう。その前に、私は何某かの動物の思いを聞いてあげることができた。それだけでもよかった。動物たちの役に立てた。
「撃て」
「撃て」
「撃て」
「撃て」
三人、いや四人か。声の主が人差し指に力をかけるのが伝わってきた。銃弾が来る。四発。弾は発射された。しかし発射された弾は、なかなか来なかった。どうしたことだろう。私は、「撃て」という声を発した地上人と私との間に飛翔している銃弾を、ゆっくりと右手で一つ一つ振り払った。一発、二発、三発、四発。
「なにい」
「こいつは」
「ライフルの弾を」
「払いのけやがった」
「嘘だ」
「そんなことある訳が」
「もう一発だ」
「もう一発」
「撃て」
「撃て」
ああうるさい。私は顔の前で蠅を追い払った。
「ぐあ」
「うひ」
「むえ」
「あひ」
無数の声が聞こえてきた。そして静かになった。静寂が訪れた。
そうだ。私は帰るんだった。地底へ。テツムネ老師の元へ。
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