其の9 無敵の人

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 「危険だ」  「注意しろ」  「近寄るな」  「遠くからだ」  「包囲しろ」  地上人の声が沢山聞こえてきた。ようやく地上人が私の脱走を察知したか。すぐに銃弾がやってくるだろう。彼らは容赦しないだろう。その前に、私は何某かの動物の思いを聞いてあげることができた。それだけでもよかった。動物たちの役に立てた。  「撃て」  「撃て」  「撃て」  「撃て」  三人、いや四人か。声の主が人差し指に力をかけるのが伝わってきた。銃弾が来る。四発。弾は発射された。しかし発射された弾は、なかなか来なかった。どうしたことだろう。私は、「撃て」という声を発した地上人と私との間に飛翔している銃弾を、ゆっくりと右手で一つ一つ振り払った。一発、二発、三発、四発。  「なにい」  「こいつは」  「ライフルの弾を」  「払いのけやがった」  「嘘だ」  「そんなことある訳が」  「もう一発だ」  「もう一発」  「撃て」  「撃て」  ああうるさい。私は顔の前で蠅を追い払った。  「ぐあ」  「うひ」  「むえ」  「あひ」  無数の声が聞こえてきた。そして静かになった。静寂が訪れた。  そうだ。私は帰るんだった。地底へ。テツムネ老師の元へ。
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