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7時30分。
進撃開始まであと30分。
涙が頬を伝った。
ドンメルの頬を涙が伝っていく。
しかしドンメルは涙を拭わない。
泣く訳にはいかないからだ。
率いている将兵の前で、また、何よりもデッドラー総統閣下の御前で、元帥たるものが泣く訳にはいかない。
しかし涙が流れる。
次から次へと涙が頬を伝っていく。
これはどうしたことか。
目が痛い。
目が痛いのだ。
これが毒霧の威力か、と、ドンメルは思った。
本作戦においては新兵器として毒霧が開発され、進撃する将兵への影響を防ぐために新たに鼻栓という防護アイテムが開発された。
まだ進撃前ではあるが、既に将兵は鼻栓装着を完了し、毒霧のニンニク臭の影響を防いでいる。新防護アイテムの鼻栓は、その効力を発揮している。
しかし。
目が。
目が痛いではないか。
これが毒霧の威力か。
毒霧のニンニク臭の威力なのか。
ドンメルの周囲の将兵達が涙を拭い始めた。
「やべろ」
とドンメルは言った。鼻栓をしているため「め」が「べ」に聞こえる。
「泣くどをやべろ。デッドラー総統閣下ど御前であるぞ」
一人の将兵が鼻栓を外した。流れてきた涙を拭い、鼻をすするためだった。将兵は涙を拭い、鼻をすすった。その途端、大きく咳込み始め、発作のように咳が止まらず、地面にのたうち回ることになった。
「鼻栓をぜよ。鼻栓を外ずだ」
叫びながら、ドンメルは改めて毒霧の持つニンニク臭に恐怖した。
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