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Fさんの向かいに座り、適当に残されたビールやら日本酒やらをかき集め私も手酌で始める。私の問い掛けに、Fさんはくすくすと笑った。
「鋭いですねえ」
「やっぱり」
「本当はね、…自信が持てないんです」
がやがやと騒がしい声がどんどん遠ざかっていく。完全に聞こえなくなった後は、やたらと広い座敷に私とFさんの二人きりで、しんと身体が冷える気がする。Fさんは、私の後ろ側にある大きな窓の外を見ていた。
「あの時ね、私は彼を間違いなく私の同僚だと言いました。でもね、さっきも言ったとおり、その、…ひどいものです。水で亡くなった遺体というのは」
「ひどい」
「聞かない方がいいです」
聞かせたくないというよりは話したくないのだろう。それなら追求することもない。そうですか、と頷くとまたコップを空にして、Fさんは大きな息を吐く。随分と酒臭い。
「もうあれから何年か経ちましたが、今同じものを見せられてもやっぱり、胸を張って彼だと言える自信はありません」
「…奥様は、ご納得されたのでしょうか」
「ええ」
雪でも降るのであろうかという冷え込みようである。暖房を強めてもらおうと思ったが、それも億劫だった。部屋が広すぎるのがいけない。
「こんな時期でしたね。道路もよく滑ったんでしょう。車ごと、落ちたと言いますから」
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