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数日後に珠子の祝言を控え、沢木家は騒々しい。
珠子は半年前に学校を卒業することなく退学し、花嫁修業として家で過ごし、
着物をあつらえたり、家具やら化粧品やらを用意していた。
珠子にすれば結婚は学校を卒業してからがいいだろうと思っているが、
善き日取りのためや準備などで希望はかなわなかった。
友人たちも卒業などどちらでも良いという。
そんなことよりも結婚が決まることの方が大事らしい。
不満を抱えながらも支度はなんとかすべて済み、あとは輿入れの日を待つばかりとなった。
「ねえ、兄さま」
「ん?」
一樹が試験勉強をしている文机の隣で、珠子は縁側に足を伸ばしブラブラ暇そうにする。
「あのね。結婚すると、珠子も文弘さんと愛し合うのよね。お父さまとお母さまのように」
珠子が何を言いたいのか意図をくみ取れずに、一樹は「まあ……」とあいまいに返事をする。
「一度しか写真で見たことがない方と愛し合えるものなのかしら?」
「う、んん……。どうだろうね。でも友人たちの多くはそういうものみたいだ」
「確かにそうね。珠子のお友達も皆、同じ……」
「優しい方だと聞いているよ」
「そうね。お顔も優しそうだわ」
「きっと珠子なら大事にしてもらえるよ」
嫁入り前には色々心配事があるのだろうと、一樹はため息をつく珠子を労わるように見つめる。
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