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毎年冬になると、母親はココアを入れてくれた。スーパーで売っているものではなく、知り合いの喫茶店の奥さんからもらった、リッチな気分になれるもの。それに、輸入食品屋で売っている、フランスのマシュマロをココアが見えなくなるくらい浮かべる。辛いこと、悲しいことがあった時、このココアにどれだけ救われただろう。
「やったー」
「じゃあ、ココアを入れるから下においで」
マグカップ3つにココアを注ぐ。マシュマロをぎゅうぎゅうに詰め、ひと口すする。優しい気持ちが一気に体に染み渡る。幸せな時に飲むココアはより幸せな気分にさせてくれる。イヴの夜、久しぶりに女3人で、時計の針が12を回るまで語り尽くした。
年が明けた。
年末年始は本当に楽しかった。
年越しそばは3杯おかわりをし、あきれる父親をよそにお餅やおせちをたらふく食べた。そして、お年玉を貰い、親戚の家でもごちそうを遠慮なく、腹十分目まで、食べた。
そして母親と姉は、年明けに福袋を買いにデパートへ行った。2人は細いので中身が見えない福袋を買っても難なく着ることが出来るが、フリーサイズの服は小さくて着れない。ネットでコスメの福袋を買い、こたつに入りながらアイスクリームを食べているほうが何倍も幸せだった。
「楓ちゃん、もう7時半だけれども間に合うの?」
ぼんやりと聞こえる母親の声。ドンドン、とドアを叩く音。
目がはっきりと覚めた。
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