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悪しきモノは何をしても悪しき方向に向かう。
それは揺らぐことのない事実であり、信念だといってもいい。一見、善行をしているようでも、その根底にあるのは「悪」なのだ。仮に意図はなかったとしても、誰かのためになるような結果は得られない。なぜか? 記憶にもない太古からの契約で決まっているからに他ならない。
だが、ばあさんもナミも、そういうモノでもただの「悪」ではなく、神になれると戯言を抜かす。バカなことを……と嘲笑ってやりたい気持ちと、本当に、自分は未来永劫「悪」として存在するしかないのだろうかというわずかな疑問が交互に押し寄せてくる。それは初めての感覚で、いくら考えても答えは見つかりそうになかった。
鬱々としながら神社のまわりを歩きまわったり、ひび割れた木の皮をいじることにも飽いて部屋に戻ると、いつものようにこー君が仰向けで豪快に寝ていた。何とも思わない光景のはずが、なぜか、今日は苛立ちをおさえきれない。枕を思い切り投げつけたうえで、ひっくり返すように背中を蹴飛ばしてやる。
「わああっ、え…え? 何?」
キョロキョロとまわりの様子を伺いながら起き上がり、眠そうな顔で俺の前に座る。
「何で、いつもここで寝るんだ。自分の場所はないのか」
「だって、ここが一番、日当たりがよくて気持ちいいから。今まで何も言わなかったのに」
「……気持ちいい部屋なのか?」
「そりゃそうでしょ。元々、この神社の神様にいてもらう部屋なんだからさ」
「あいつらはまた何か企んでるのか」
今にも目を閉じそうになりながら、首をかしげた。しばらく考えている様子を見せたが、わからないようだ。
「だから。ナミとばあさんだ」
「企むって?」
「あんなに神になれって言っておいて、だな」
「えへ。もしかして気になって……あぁぁ、ごめんなさい!ごめんさい!」
からかうような声色を察してにらみつけた途端、全力の謝罪。こいつは本当に神殿を守る役割を担っていたのか、はなはだ疑問だ。
「何も企んでないし、忘れてるわけでもないと思うよ。悪さんがここに慣れるまで待ってるんじゃないかなあ。あ、律はわかんないけど」
「律……ばあさんか。あれは曲者だろ」
「ナミよりは長く生きているわけだし、昔はもっと強い力があったから修羅場も経験してて、ナミの支えみたいな感じだから」
「ふん」
「気になるなら本人に聞くのが一番! 呼んでくる!」
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