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違う。そういうことじゃない。阻止する前に、こー君は消えていた。もし、今、ここにいたのがまーちゃんだったら、冷静に話をしたうえで行動に移しただろう。話す相手を完全に間違えた。
何を言われたのか、不安そうな顔をしたナミが部屋に駆け込んできた。しばらく立ち尽くし、静かに俺の前に座ったまま口をつぐんでいる。ナミが話し出すのを待とうと思い向き合ったままでいたが、沈黙と異様な空気、重い時間に耐えられなくなった。
「何か用か?」
「え……うん…あの、悪さんは、やっぱり、ここにいるのはツライの?」
「は?」
泣き出す寸前のような顔をしながら、予想外のことを言いだしたので意味がわからなかった。
「だって……こー君が、悩んでいるって…それって、ここにいたくないってことなのかなって」
「バカ狛め。悩むわけないだろうが」
「よかった。でも、じゃあこー君が言ってたのはナンだったんだろ?」
「あいつが何を言ったかは知らんが。お前らはどうせまた何か企んでいるじゃないか…という話はしたな」
「企むって?」
「神にならなくていいのか。それとも、作戦のひとつか」
「そんなんじゃない、けど。よく考えたら知らない土地でいきなり言われても、困るだろうし。まずは体力回復して、私たちのことを知ってもらってから…のほうがいいよねと思ったから」
今さら、よく考えたらもないものだ。すぐにわかることだろう。呆れる思いだったが、ナミが真剣な顔をしていたので言葉にはできなかった。
「ふうん。完全に力が戻ったら、ここを離れるくらい何でもない。すぐいなくなるかもしれんぞ」
「それは……できれば、ここにいて神様になってくれたらうれしいけど。無理強いしても意味ないもの」
「じゃあ、こんな風に世話をするのも無意味だな」
「ううん。もう、悪さんの恩恵を受けてるから、無意味だなんてことない」
恩恵もなにも力を使った覚えなどなかった。よほど怪訝な顔をしていたのか、ナミは俺の腕を取ると窓際に連れて行って、外を指差した。そこから見えるのは、ところどころ枯葉が残っている木々と夕暮れ色に染まった空だけ。いつもの景色だ。
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