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怒りでも悲しみでもない、ただモヤモヤとする思いは日常の中で蓄積されていった。どこかに溢れだす機会を、息をひそめてうかがっている。そんな感じだったのかもしれない。
数日経った、ある日の夕方、学校帰りのナミが顔を出して、いつものようにこー君とじゃれていた。
「今日、ナミがいない間にどこかのおばあちゃんが神社の前に来てたよ! 覗いただけだったけど、ちゃんと一礼してくれて、うれしかったなあ」
「やっぱり雰囲気変わったのが伝わるのかな。これも悪さんのおかげだね」
俺のあずかり知らぬことをうれしそうに言い合うのを、苛つきながら眺めていた。そして、ふと違和感を覚えた。確信があったわけではないが、その日のナミは違う空気を発しているように見えた。
ちょっとしたいたずら心と仕返しの意味もあり、彼女の意識を探るように集中してみる。見えたのは周囲と距離がありポツンとしているナミの姿。聞こえたのは誰かのヒソヒソ声だけで、いつものうるさいナミの声はまったく聞こえない。水を含んだ墨絵のようにかすんでいる光景の中、ひとりの男の姿が強く浮き出ているが、やはり近づいてはこない。むしろ遠ざかっていく。
「どうして神社にこだわるのか、わかったぞ」
「え、何……いきなり、何で、そんなこと?」
俺が笑っていることが怖いのか、ナミは明らかに怯えた顔をしながら聞き返してきた。
「お前は同胞が集まっているはずの学校で居場所がないんだな。あれは、ひそかに思っている男か。そいつにも距離を置かれ」
「やめてよっ!!!」
初めて聞く、ナミの悲鳴だった。こー君が硬直するのがわかったが、モヤモヤを溢れさせる機会、見逃すはずない。
「本当は神様も神社も、何なら、この狛犬どももどうでもいいんだろ。ただ、自分では居場所を確保できないから」
「違うっ!違う違う違うー! そんなんじゃない、私は、本当に」
「神社再建という名目があれば、苦労なくここにいられる上、感謝されるからなあ。だから、願ってる振りをしてるんだよ」
「そ、そんなことない! だって、こー君やまーちゃんも、復活するなんてわからなかったし、最初はとてもそんな感じじゃなくて」
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