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「ああ。そうか。じゃあ、そのときに使えるって思ったのか。狛犬もばあさんも、お前の居場所作りのおもちゃか」
「おもちゃ、なんて思ったこと一度もない! 取り消してよ」
怒りのためか、ナミの声は震えている。怒鳴ろうとしても威力は皆無だ。
「俺は、お前や狛犬やばあさんを解放してやろうとしてるんだぞ。見ないようにしているものを、わかりやすく言葉にしているだけだ」
「見ないように、なんか」
「じゃあ答えろ。学校とやらに、お前の居場所はあるのか? 一緒に神社再建を目指してくれる仲間はいるんだよな?」
ナミが瞬きするたびに大粒の涙が零れ落ちて、顔だけでなく、ぎゅっと握り締めた手を濡らしていった。
「答えられないのか? まあ、それでもいいぞ。お前が何をおもちゃにしようが、関係ないからな」
「……っ、た確かに、神社、や、こー君たち、のこと、を話せる、人はいないし…距離は、あるのわかってる」
すぐ消えてしまいそうなほどか細い、煙のような声。吹き消してやりたい衝動と、こんな声を聞きたいわけじゃないという痛みにも似た感情がせめぎあっていた。
「で…でも、それと、は、別で……本当に、神社を再建、したいって……こー君たち、に会えた、ときも、本当に、うれしくて…なのに、おもちゃ、なんて、ひどいよ」
「俺にしたら自分の都合で復活させようとしたり、自分の居場所のために巻き込むほうがひどいと思うがな。もし、学校に信頼関係を築ける人がいたら、まったく同じことをしてたか? 学校が終わったらどこにも寄らず荒れ果てた神社に来たのか?」
もう瞬きをしなくても涙は流れ続けていた。体内にも涙が溢れているのか呼吸が荒くなり、口からは、ひっ、ひっ、という小さな音がもれている。
「…そ…、っ、そんな、の……で、でも…ち、ちがう、もの…、あ悪、さん、には、わかんないよ」
「ああ。そうだ。ようやく気づいたのか。俺は、地獄の宰相に仕えていた身だからな。わかるわけもない」
ナミのわずかな拒否の言葉。それを待っていたはずなのに、なぜか、清々とはしない。
自分が発した言葉の意味を理解したのだろう。指先で口を押さえるが、一度、口から出た言葉は決して取り返せない。俺を見たまま、後ずさりして部屋から出て行った。気づくと、こー君も消えていた。
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