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どうすることもできず、気づくと黙ったまま外に出ていた。こんなわけのわからないところにいたくない、どこでもいい、違う場所に行かせろ! そう念じながら、無理を承知で空に意識を飛ばし続けた。今までよりも長く、深く、どこにも行けないのなら、ずっとこうしていてやるという挑むような気持ち。
ふと匂いが変わった感じがして、目を開けると見覚えのない部屋の隅で立っていた。いつもの部屋と似ているが、棚や小さいテーブルなど物が多いため狭く感じる。2人も座ってしまえば、もう空いている空間はなさそうだ。
ガラッと扉が動いて入ってきたのは、ナミのばあさんだった。
「よっこい……はええええっ!」
ばあさんが盛大に声を上げたため、驚く隙もなく黙って立っているより他ない。
「えっ、あ、悪さん、かい? どっから入った? え? いつ?」
見たことないほどの取り乱しように、かえって冷静になっていった。テーブルの側にある長い椅子のようなクッションのような不思議なものに座ることにする。
「神社から、出られたんか? どうやって?」
「落ちつけ。ここは、ばあさんちでいいのか?」
ばあさんはうんうんというように2回大きくうなずく。突然、俺が部屋に現れて驚いている、ということのようだ。慌てても仕方ないので、ばあさんにコーヒーを飲みながら話すことを提案すると、意義を唱えることもなく扉の向こう側に出て行った。落ちつかせるというだけなく、淹れている間に何が起こったのか考えておきたかった。
数分して、コーヒーの香りとともにばあさんが部屋に戻ってきた。テーブルにコーヒーがなみなみと入ったカップとビスケットのような菓子が乗った皿を置いて、うながすように俺に視線を送ってくる。
「……どうやって、ここに来たのかはわからんが、いつというのならば、おそらくついさっきだろう」
コーヒーをすすりながらそう言うと、ばあさんの眉間に皺が寄り、口は固く結んだまま、うなっている。
「ただ、さっき、神社以外の、どこでもいいから違う場所に行くことを念じた。考えられるのはそれだろうが、何でばあさんちなのかは、わからん。他に質問は?」
難しい顔をしていたばあさんはコーヒーをゴクリと飲むと、深いため息をついて「なるほどなあ」とつぶやいた。ひとりで納得して終わったのか、そのまま黙ってしまった。
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