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「おい。何が、なるほどなんだ」
「ああ、いやぁ、確証はないけども、おそらく悪さんは、ほれ、そこの神棚を通じて来たのかもなあ」
ばあさんが顎を上げて示したほうの天井よりには、なにやら小さい神殿のようなものが飾ってあった。
「カミダナとはなんだ? あんな小さいところを通れるものか」
「そりゃ、あそこから来たのを実際に見たわけじゃないけども。しかし、人間とは違うから色んな移動方法が可能なんじゃないかねえ。神棚は自分の信じている神様を祀るための場所、とでもいうかね。だから、敷地内で、とにかく違う場所に!と念じたことで、縁のある神棚を通じて、ここに来たのかもしれんなあと考えたら、なるほど、と出ただけのことよ」
「ふうん。そんなこと、今まであったのか?」
「あるわけないでしょうに。なーにを言ってんだか。それより、本殿にいたくないような何かあったんか?」
はぐらかそうとしたが、ニコニコ笑いながら追求してくるばあさんには抗えず、ナミとの言い合いから、その後、まったく会ってないこと、なぜかナミが謝ろうとしていることまで話していた。
自分の孫を泣かされたわけだから怒っているだろうと思いきや、ばあさんは笑ったまま聞いていた。怒るどころか喜んでさえいるようだ。
「それで、気づいたらうちに来てたってわけか。で、何がそんなに嫌だったん? ナミは謝るつうんだから別にいいでしょうに」
「うるさい。気持ち悪いんだよ。謝ろうとするナミも、それを止めないこー君も、こんなことで荒れてる……自分も」
最後のは言葉にして、自分でも初めて知る思いだった。でも、ずっとモヤモヤしていたのは、ナミやこー君に対するものではなく、これまでのように迷いなく行動できなくなっている自分に対してなのかもしれない。
「悪さんに、そういう迷いみたいなもんが生じてるとしたら、ここの住人になりつつあるってことなのかもなあ」
「は?」
「コーヒーだけでなく、パンや色んなもんを食べたり飲んだりして、ナミや狛たちと生活していれば、そうなっても不思議はないって。でも、そういう変化に今までの悪さんが戸惑って、イラついているんじゃないかね。ふむ。どうしても、ここが嫌で出て行きたいと思うのなら、ひとつ、試してみんか?」
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