3 意図せぬ力

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 ナミは顔を上げて、俺を見つめたままきっぱりと宣言した。迷いのない視線を真正面から受け止める。 「ムリするな。ほしいんだろ?」 「悪さんがここにいるかどうかは別としても、そんな風に手に入れても意味ないって思うから。学校での人間関係は、私が自分で何とかしなきゃいけないって、わかってる。だから、それと神社に対する気持ちは、まったく関係ないとはいえないかもしれないけど、でも、別だから。自分の居場所が欲しいだけじゃないから」 「そうかな。学校で居場所ができたら、こっちはどうでもよくなるかもしれんぞ」 「ううん。ならない。だって、ほかの何を失っても、あれ以上の喪失感はないもの」  ナミは、おぼろげな記憶しかない子供時代の中で、唯一、はっきり覚えているという話をし始めた。  昔、この神社に来るたび感じていた、自分を包んでくれる温かく大きな空気が大好きでしょっちゅう遊びに来ていたという。だが、あるとき、その空気がまったくなくなってしまう。何も感じないというのではなく、何か大きなモノが失われたようで、わけもなく不安になりいてもたってもいられない感覚に陥り、逃げ帰ったんだそうだ。たまたま自分の体調が悪いのか。天気のせいか。季節の変わり目だからかなど様々な原因を考えた末に、ぐっすり眠ってすこぶる体調のいい日に来てみたり、一年に数日しかない暑くも寒くもない快適な日、空気が光りはじめる春の日と試したが、二度と温かな空気に包まれることはなかった。 「かなり後になって、おばあちゃんにその話をしたら、時期的にも私が感じていたのは神様の気配だろうって言われた」 「で、その神様が消えたってことか?」
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