3 意図せぬ力

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 風に比べると光はまだやりやすかったが、やはり何度も失敗を繰り返した。晴れているわけでも雨が降っているわけでもない、雲がかかっているときが一番厄介だった。拝殿という人が拝むところを示すように光を集めると、「不自然すぎるし、あんまり強いと眩しく感じるから避けようって思うかも」だそうで、それではと、やわらかな光にすれば「何もわからない」とくる。  一番、反応がよかったのは、拝殿や鳥居ではなく、まわりの空気中の水分や木々に光を当てたときだった。まどろっこしく感じるが、自然と足を止めて見上げたくなるんだという。いかに周囲を輝かせるか。簡単なようで、実行するのは難しい。  年令によって感じ方も違うだろうということで、ばあさんにも実験台になってもらったがナミ以上に注文が細かい。正直、うんざりしてしまい、何でこんなことをしてるんだ?と投げ出したくなる場面もあった。 「悪さんにしたら、理不尽なことをさせられてるって感じよなあ。でも、風や光で人を誘惑することができたら、今後、役に立つと思うよ。地味かもしれんけど、意外と色んな場面で使えるんじゃないかねえ」  なだめるようなばあさんの言葉に乗ってやることにした。それに、こんな細かい術を習得する機会は二度とないだろうから、やめるのはもったいなく思えてきたのも事実だ。   ナミと狛犬たちはせっせと神社をキレイにしただけでなく、敷地内に木製のベンチのようなものを設置した。まだ神社ではないから、お参りというような神聖なものではなく、もっと気軽に、ひと休みするぐらいの気持ちで来てほしいという願いの表れだ。  俺の風と光は、毎日、駆使してやるつもりでいたが、まーちゃんに強く強く止められた。時々起こるからこそ意味があり、喜ばれるのであって、常に光っていたら見慣れてしまう、との主張だ。  なるほど。納得してしまった。では、いつ発揮するかが問題となる。まずは天気や気温、人通りを確認しながら、毎朝話し合って決めることになった。1週間に2度のときもあれば、2週間何もしないなどランダムに行い、様子を見るしかなさそうだ。必然的に部屋にいるよりも外に出て、人がどれくらいいるか、どういう風や温度、光に顔をしかめるのかなどを観察するようになっていた。木の上にいても寝転ぶのではなく、人の流れが気になって目で追ってしまう。それによって、風の向きや強さを調整するようになっていた。
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