4 悪と少年とナミ

3/19
65人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
 翌日の午後、定位置となった一番高い木の上にいると、紺色のジャケットにスカートという格好のナミが来るのが見えた。学校から直接来たのか、いつもよりかなり早くまだ夕暮れにもなっていない。ナミのことだから、少年が気になって一目散に飛び出してきたのだろう。 「今日はずいぶん早いな」  建物の中に入ろうとしているナミの背後に下りて言うと、振り返りながら「今日もいるの?」とだけ聞いてくる。予想通りだ。 「あっちの奥。騒がしくすると、逃げるかもしれんぞ」  少年がいるほうを指差すと口を強く結んでうなずき、抜き足で歩いて行った。静かに近づくのはいいとして、いきなり話しかけたら無意味になるが、果たしてうまくできるのかねえとあやしんでいたところ、読み通りすぎて怒る気にもならない。 「こんにちは! ねえ、僕、ここで…あ、ちょっと…えーっ」  ナミは少年の真横に立ち、顔見知りに挨拶するようないつもの元気なトーンで声をかけた。突然、話しかけられて驚いた少年は猫のように体をビクつかせて、走り去ってしまった。その場には、少年の肩を触ろうと差し出されたナミの手が空で止まったまま残された。  立ち尽くしているナミを残して雑草管理に余念のないこー君に、後でまーちゃんも連れて部屋に来るよう伝えて、先に戻る。程なくして、あからさまに落ち込んでいるナミと事情がわからず戸惑っている狛犬たちが入ってきた。 「それで、わざわざ部屋に呼ぶということは、何かあったのですか?」  口火を切ったのはまーちゃんだった。ナミに説明をするよう視線を送ると、最初は首を振って嫌がっていたが、あきらめたのか小さな声で話し始めた。もちろん少年の様子などは知らないので、そこは「人を避けるように、体を丸めてただじっとしていた」と補足しておいた。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!