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すべてを聞き終えると、まーちゃんが深いため息をついた。
「ナミ、悪さんから、人に会いたくないって聞いてたんですよね?」
「うん……だから、できる限り、明るく声を」
「誰にも会いたくないと思って、実際に避けているとき、明るい声で話しかけられたら、どう思うのか考えたんですか?」
「それは……」
「まあまあ。ナミだって、わざとじゃないんだしさ。また来たら」
「また、来ればいいですけどね」
こー君の軽い助け船は通用するわけがなかった。おそらく、まーちゃんもあの少年の存在に気づいていて、何か抱えているであろうことも察知しているに違いない。
「逃げたのは、ナミがいきなり大きな声で話しかけたのと、触ろうとしたからだと考えてる」
そう言っても、ナミとこー君はピンときていないようだ。まーちゃんは、わずかに目を細めて嫌なものを見てしまったような顔つきになる。
「断定はしないが。あの子は、おそらく周囲から疎まれ、邪険にされ、拒絶されている」
「それって……いじめ、られてるってこと?」
「それも可能性のひとつだな。でも、もっと逃げ場のない身近な周囲だ。お前らの言葉で言うなら、虐待ってやつか。日常的に暴言を吐かれているから大きな声が怖い。痛めつけられてるから触られるのが怖い。だから、思わず逃げ出した」
ナミの顔から血の気が引いていくのがわかった。聞こえるはずのない、サーっという血流の音まで聞こえてきそうだ。
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