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少年が再び来たのは、3日後だった。
見回り強化中のこー君が気づき、神社のまわりで佇んでいるけれど入るのをためらっているようだと伝えてきた。木の上から少年の姿を確認すると、入り口に近づいては後ずさることを繰り返している。入りたい。怖い。でも、他に行くところはない。ほんの少しでいいから休まりたい。そんな揺れが見えるようだ。
遠く離れた場所から待っているしかないのか。入ってこい。あの場所でうずくまり、顔を伏せていればいい。そう思ったとき、雲のすき間からやわらかい光が差し込んできて、今の俺は風と光を操れることを思い出した。
今までにないくらい意識を集中させる。薄いガラスをそっと手に取るように、力が入らないよう。けれど、落とさぬよう、ほんの少しずつ空気を動かしていく。ここに怖いものはない。何も変えなくていい。自分をさらす必要なんてない。ただ息をつけばいい、そう念じながら。
足を進めては止まり、引き返そうとしては、一歩踏み出す。少年はそんなことを繰り返していたが、不意に視線を上げる。鳥居のまわりの木々から漏れている光に見とれているようだ。その輝きにひかれるように、ゆっくりと歩を進めていった。
少年がいつもの場所に腰を下ろしてから1時間ほどしてナミが来た。部屋で待っていると、すでにこー君から聞いたのだろう、深刻な顔をして入ってきた。
「来てるぞ」
「うん…ずいぶん、ためらってたって」
「こー君が気づいて、ほんの少し風と光を使った。ここから先はお前にしかできない」
「え?」
「俺も、狛犬たちも、あの子に話しかけたり、触ることはできない。でも、お前はできることがたくさんあるだろ」
「……また、間違えちゃった、ら」
今にも泣きそうな顔をしながら、それでもうつむかず俺をしっかり見つめている。
「ただそばにいることも、できることのひとつだと思うがな。ああ、このまま放っておくという手も悪くないかもしれん」
わずかな間があった後、意を決したようにうなずくと部屋から出て行った。俺にもできることがひとつある。木の上から、2人を見る。笑いたくなるくらい、些細だけど、この部屋でじっとしているよりはマシだろう。
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