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2人の距離が急激に縮まったのは、ナミが一緒に座るようになってから10日後のことだった。
少年は相変わらず言葉を発していないが、もう下を向くことはほとんどなく、まっすぐ前を見たり、ナミを横目で気にもしていた。鳥の羽ばたきに空を見上げるなど、意識が外へと伸びていくのが手に取るようにわかる。
その日、ナミは最初から少年の隣に座り、半分に割った最中の形をしたアイスをそっと差し出した。
「お願いがあるんだけど。これ、食べてくれないかな? ひとりで全部食べるには、ちょっと肌寒いし」
ささやくような声に少年の体がわずかに動くけれど、立ち上がりはしない。
「……とっておいて、あす、たべれば」
「そうすると、ほかの人に食べられちゃうんだもの」
ナミが自分の分を食べながら、さらに差し出すと、遠慮がちに手を出して受け取った。
「ありがとう」
「……」
はじめは、ナミの様子を窺いながら小さく食べていたが、やがて、かぶりつくように食べだした。交わした言葉はわずかだったが、帰るときまで、ずっと並んで座っていた。
それ以降、当たり前のように並んで座り、時々、ナミとおやつを食べるくらいには近づいたが、個人的な質問をしようとするとサッと顔色が変わるのだという。また、ばあさんからもらった饅頭を分けようとしてナミの指が軽く触れた途端、少年の体が引くのが、木の上からでもわかった。ナミが何も気づかない振りをして半分にした饅頭を渡すと、まるで怒られずに済んでホッとしたように自分の分を食べはじめる。ひと口ずつ、大切に味わうようにゆっくり食べる様は、何の変哲もない茶色の饅頭が特別なものに見える。
ナミと話し合い、帰り際、見送るのではなく一緒に歩いて拝殿まで連れてきて、何か願いごとをさせてみることにした。実際に声に出す必要はなく、心の中でつぶやけばいい。「お菓子が食べたい」でも何でもいい。ただ、そのときに名前とどこに住んでいるかも一緒に言うようにすれば、少なくとも、俺には伝わる。
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