66人が本棚に入れています
本棚に追加
どんな小さい声だとしても漏らさず拾おうと、すべての神経を目の前の少年に集中させた。今まで、誰にも言えなかったことが溢れるかもしれないと待ち構えていたが、あっけないほど簡単なものだった。それゆえ、少年の置かれている状況が深刻だとわかってしまう。
「もういいの?」
手を合わせてからほんの数秒で、少年は顔を上げた。
「…うん。かみさま、きいてくれたのかな」
「聞いてると思うよ」
「また…はなしかけても、いいのかな」
「もちろん。いつでも平気だからね」
薄く笑うと、鳥居に向かって歩き出した。
その後、部屋に集合して、少年が言っていたことを伝えたが、すぐに終わってしまう。
「名前はタカシ、小さいアパートに住んでいて、願いは、きょう、ねられますように。だ」
誰も言葉を発することができず、沈黙が支配する。唯一の願いが睡眠とは思いもしなかった。俺としては、自分を痛めつけている奴への報復を願ってほしかったくらいだ。せめて、おいしいものをたくさん食べたいとか、おもちゃが欲しいとか、もっと何かあるだろう。
「ナミは、このことを律に伝えたほうがいいと思います」
まーちゃんの落ちついた声が沈黙を破る。
「そうだな。少なくとも、名前の一部は判明したから、何かの手がかりになるかもしれん」
「わかった。タカシ君、ぐっすり眠れるといいな」
ナミが帰った後、おぼろ月が浮かぶ空を見上げて、同じことを願った。このやわらかな光に包まれて、何の心配もなく眠れていればいい。強い太陽が顔を出せば、また現実が始まるのだから。
最初のコメントを投稿しよう!