4 悪と少年とナミ

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 タカシは拝殿で手を合わせて帰るのが習慣となった。願い事に多少の違いはあったが、大体「ねむれますように」、「こわいことがありませんように」、「あすはなにもありませんように」の3つのうちどれかだった。  未だに正式な名前も住所もわからず、契約を交わしたわけでもないため本領発揮するわけにいかない。行動範囲が広がったとはいえ自由に動きまわれない俺に、この神社を守ることが本分である狛犬たちでは動きようがなく、手詰まりとなった。  4月も終わろうとしていた、ある日の朝、ナミよりも早くばあさんがやって来た。 「朝から珍しいな」 「あ、悪さん、タカシ君がどこの子か、多分、わかったぞ!」 「本当か」 「多分、だけども。去年の終わりくらいに引っ越してきた若い夫婦がいるんやけど、近所づきあいをほとんどしてないから、時間がかかってしまって。そこに小さな男の子がいたはずなのに子供連れで出かけるのを見ないし、夜、大きな物音がしてるらしい。みんな、どういう人かもわからんから、怖がって通報とかもしなかったようだ」 「その家の場所がわかれば、ナミに」 「いや、それはやめたほうがいい。いきなり訪ねていくのはおかしいし、もし、親が警戒して、家から出さなくなったら、ここにも来れなくなってしまうわ」  2人でうなっていると、ナミがいつものように顔を出して驚く。 「悪さん、ごめん。今日、コーヒーな……って、おばあちゃん! 何で? え? 何かあったの?」  タカシがどこの子かわかるかもしれないが確認する術がないと伝えると、一瞬喜んだものの、すぐ難しい顔になった。ばあさんに「顔芸してないで、ナミは学校に行って来い。居残りなんかさせられないよう、勉強に集中するんだよ」と言われて、追い出される。  ばあさんが町の見回りボランティアをしていると口実をつけて訪問することも考えたが、もし、男の子がいてもタカシかどうかはわからない。名前を確認するとしても、あえて違う名前を名乗っていたとしたら、親だけでなくタカシ本人も警戒してしまうだろう。
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