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「俺がばあさんちに行けるのは神棚があるからって言ってたよな」
「まあ、そうじゃないかってくらいなもんやけど」
「この神社に縁のある場所なら移動できるんであれば、何とかできるんじゃないのか」
「そりゃ、タカシ君んちが元々ここの氏子で神棚でもありゃあ可能だけど、もう、神社としてはやってないしのう。第一、引っ越してきて、近所づきあいもしない夫婦がその土地の朽ちた神社に興味持つわけないだろうに」
「律がここの物を何か持っていき、悪さんがそれを通して確認すればよろしいのでは?」
お茶の用意をしたまーちゃんが部屋に入るなり、議論に加わってきた。
「確認?」
「ええ。日本では千里先のことも見通せる、千里眼という力があります。悪さんに、そのようなことができるのであれば、目の代わりになればいいのですから、神棚ほど大きなものでなくても構わないと思いますが」
「だったら、これがいいよ」
こー君が持ってきたのは、ばあさんの手のひらに乗るくらいの透明な玉だった。どうやら、昔、神社として機能していたときの名残りの品らしい。自ら光を発しているかのように輝いていて、美しい。
「あれ、懐かしい。どこにあったん?」
「この間、本殿の奥を掃除してたら見つけた」
「まーちゃんの作戦でやるしかないな。それを貸せ」
透明の玉を握り、自分の一部を渡すように意識を集中させる。目になれ。わずかな時間でいい。俺の目になれ。玉をばあさんに託すと、後は千里眼とやらができることを祈るほかない。
小さい子供がいるのなら、昼時を狙って行ってみるとのことだったので、それくらいになると雑念を消すため部屋に入った。どうやれば見えるのかわからないが、とにかくあの玉に渡した意識の欠片をたぐり寄せるよう慎重に探す。が、わからない。
「悪さん」
「あ? ああ、千里眼など、さっぱりわからんぞ」
「自分もそんな能力はありません。でも、悪さんは光を操れますよね。あの透明な玉が放っていた光に集中してはいかがでしょうか。色は光だといいます。であるならば、悪さんが千里眼を使えぬはずありません」
そうか。光を引き寄せればいいか。それなら、できる可能性もある。何の濁りもない、透明な輝き。どこだ。俺のところに来い。探しながら、呼び寄せる。やがて、光の瞬きが見えた。
「見えた」
そう言うと、まーちゃんは静かに出て行った。後は、この光を見失わないようにするだけだ。
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