第一章 福の手

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 テレビをつけると、雑音の中、緊急速報が入り災害の発生を伝えていた。俺はテレビまで歩くと、両手でバンバンと叩いてみたが、接続は一向に良くならない。 「聞こえません!もう一度、言ってください!お願いします」  この雑音は、テレビが古いせいもあるが、この場所に電波が届かないせいもある。 「倉田さん、新しいテレビが欲しいです!」  俺は炬燵の上に戻ると、リモコンに乗って操作してみたが、どこの局も災害の話題になっていた。そして、どこもノイズが多すぎて、ほぼ聞こえない状態であった。  ここは死保で、台風も地震もないが、家族は現世にいるので災害が気になってしまう。 『市来君、無理は言わないで……』  炬燵に座ったまま、文字を書き続けているのは倉田で、部屋ごと死保に来てしまった珍しい人であった。倉田は眠ったままで目を開く事はないが、代わりに皆の状況は見えている。  死保、【死保留中探索調査委員会】は、死んでいる者、もしくは、死に近しい状態の者で、自分が死んだ(もしくは、その状態に陥った)原因を知らない者が来る場所となっていた。死保にはチームがあり、それぞれに仕事がやってくる、倉田はここのチームの受付兼記録係及び報告係であった。  この部屋から、外部に連絡できるのは、眠っている倉田だけで、俺達は倉田の書き出す文字を読んで情報を得ている。  人は、何故死に至ったのか知らないと、次のステップに行けないらしい。そこで、死保は留まってしまった、理由や原因を調査していた。 「倉田さん、災害が気になります!」  死保では、テレビはほとんど繋がらないので、普段はスイッチも入れないのだが、今はたまたま俺がリモコンを踏んでしまい、テレビがついてしまったのだ。  死保からは、仕事がないと出られないので、災害があっても助けに行く事ができない。でも、やはり心配であろう。 『市来君、無理は言わないで……』 「倉田さん、情報が欲しいです」  この部屋は四畳半と狭く、その中央に炬燵もあるので、更に狭く感じる。人が数人いただけで、既に狭い感じがあるので、死保のメンバーは仕事がないときは、押し入れの中に格納されている。  しかし、俺は押し入れに入る事ができなかったので、小型化して部屋に出ていた。
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