第一章 福の手

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 俺の今の身長は、二十センチメートルほどで、人形ほどの大きさになっている。そこで、足で踏んでリモコンを操作していた。 「災害、実家に近そうで、気になります!」 『そうだね……災害は私も気になるよ』  倉田は、自分の会社もあり、それなりにリッチな生活ができた筈だが、小説を書く事が生き甲斐で、派手な生活には興味がなかった。そして倉田は、小説を書くために、日常とは離れた専用の部屋を用意していた。この四畳半の部屋がそうで、倉田が小説を書くために借りていた専用の部屋であった。 「倉田さんの借りていたアパートも、災害で消えているかもしれませんよね……こんなに古いし……ガタガタだし」  倉田が眠ったままなので、逃げられずに埋まっているかもしれない。 「倉田さんが死んでしまったら、困りますよね……俺、報告書を書くのは嫌いだし……」  俺は、勤務報告を書くのも苦手であった。今も、報告書を書くのが倉田であるので、俺は自由に行動してしまっているのかもしれない。そう考えると、俺はかなり倉田に依存している。  部屋を見回すと、その設備の古さを確認する。戸なども、型からすると数十年前のものだろう。雨戸も風が吹いたら外れそうなくらいに、ガタガタとしている。天井には何かのシミがあり、時折、人の顔のようにも見えていた。 「アパートがボロ過ぎる……台風が来たら瓦礫の山になりそうだ……大家に補強を依頼しないと……雨戸も酷いし……」  窓が開かないので、どんな立地条件なのか分からない。もしかしたら、川など流れているかもしれない。俺は炬燵を飛び降りると、窓に近寄り音なども確認してみた。  死保は外の音も聞こえないらしく、静まっている。 「すでに瓦礫の山なのかな……」  あれこれ外の様子を想像していると、コツコツコツと倉田がペンを鳴らしていた。俺は、倉田を見ると、そのままカーテンによじ登ってみた。天井が開いて、屋根に出られるとかはないのだろうか。アンテナの向きを変えたい気もする。  しかし、天井の板の向こうも暗い闇で、閉じられてしまっていた。暫しカーテンにぶらさがって揺れていると、激しくペンを鳴らされていた。俺は仕方なく、カーテンを滑り降りると、炬燵に登った。 『市来君!危ないでしょう!天井から落ちたらどうするの』
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