堕ちたる才が紡ぐ未来

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「八百屋よ。実はなお前さんの娘の事なんだが、ちょっと向こう見て見ろ」  そう言い、指差した先は川の反対側だった。そこには十年近く会って居なかった娘が立っていた。 「、、、、、、、嘘。だろ、、、、、、、何で長老。俺、娘の話なんて一度もした事無いのに」 「お前さんの店の借金の事なんだが、実はな。奥さんが目途が立ったからとお前さんずっと探していたそうじゃ」  真っ赤になって涙を流していたのはお酒だけの所為では無かった。拭えど拭えど涙は枯れる事無く流れ続け鼻まで出てくる始末である。 「どのツラ下げて会いに行けってんだ。逃げて逃げて今まで酒に溺れて、嫁と子どもと借金から逃げ来たってのに」 「奥さんが迎えに来たんじゃ。それ以上の答えは有るまい。それに八百屋、お前と生活してお前がどれだけ後悔して反省して悔やんで生きて来たかはワシも知っとるからのう」  そう言い、クッキー缶の中に入った茶封筒と汚れた札束を取り出した。  その中には手垢まみれの現金と共に、ずっと出せずにいた茶封筒に入っていた嫁と娘への謝罪と今の状況などを書き記した手紙が幾つも入っていた。 「コレを渡して謝ってこい。それでも許して貰えないなら死にもの狂いで二人に生涯かけて詫びいれて来い。それがお前さんのしなければならない事じゃろう?魚屋」 「余計なことしやがって、俺はぁ、、、俺は、、、、八百屋だ。ありがとう、一生かけて許して貰いに行って来る!」  そう言い、嫁と娘の元へ八百屋は駆け寄って行った。川向うでもすぐさま謝り嫁に頬をはたかれると三人で固まって泣き叫んでいる事が見てとれた。  これならば何とかなるだろうと、長老とサラリーは安堵し。三人が歩き出すまでジッと見送っていた。
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