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ルドベキアに散る
空を遮る水蒸気。それを吐き出す錆びついた鉄の箱。油の浮かぶ、濁った水たまり。落書きごと舗装がはがれた路地。ごみ箱を漁るネズミと浮浪者。
黒い乗用車は入口で男と少年を降ろした。
男の革靴は潰れたアルミ缶をひとつ、ふたつと蹴り上げる。群がっていた犬たちは散り散りとなり、無数の足音は腐食したトタンの隙間をくぐり、消えていった。
獣の群れが去った袋小路に残されていたのは、黒いビニール袋の山。
少年はビニール製の手袋をはめ、狭い袋小路をぐるりと眺めた。
「犬がかわいそうですよ、ヨハン」
「噛まれてテメーの世話になるのはゴメンだ」
ヨハンと呼ばれた男は車のボンネットに腰を下ろす。
少年が指で十字を切った。薄暗い中、彼の青い瞳は一等星のように輝く。
「特にこれと言った痕跡はありませんね。触っても良いですか?」
「テメーの好きにしろ」
「では、しばらく喫煙は遠慮して下さい」
「…………」
ライターを探るヨハンの口からタバコを取り上げ、少年はそれを彼のポケットへと放り込む。しかめっ面のまま、ヨハンはポケットへ手を突っ込んだ。
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