ルドベキアに散る

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 少年は黒い山に歩み寄り、袋のひとつを一端から引きずり出す。自身とそう変わらない重量の袋を、華奢な腕は難なく運んだ。 「酷い臭いですね。雨が続いていたせいでしょうか」  引き裂かれたビニール袋からは、鼻をつく異臭と、どす黒い液体が点々と零れる。躊躇いなく袋をこちらへ運ぶ少年に、ヨハンは身を退く。 「おい。俺の靴と車は汚すんじゃねぇぞ」 「どうして汚したくない恰好で現場に来るのですか?」 「好んでこんな肥溜めでお前とデートしに来てるンじゃねぇよ」 「そうですね。でも僕はあなたのそういう正直な所が好きですよ、ヨハン」 「気持ちワリィこと抜かすな!」  ヨハンは身震いしてハンカチを取り出した。少年ははみ出していた袋の中身をつまみ出す。  カラスの鳴き声が頭上で木霊した。 「手、腕の細さや長さからして、成人前後の白人女性。毛髪は、ブロンドかな。切断面は相変わらず雑だ。何度も切れ味の悪い刃物で切り付けている」  少年は解体された部品をひとつずつ取り出して並べていく。  一方、ヨハンの額からは汗が流れ、日に焼けた肌からは血の気が失せていった。 「袋の中に血はそこまで溜まっていないね。死後に切断されているだけ、彼女はマシなほうだ」 「満足したなら帰るぞ。飯がマズくなる……」 「ダメですよ。全員確認させて下さい。彼女にも長期に渡る暴行の痕跡。そして、いつもの通し番号が見られます。彼女の番号からして袋の中身は全て死体と見て良いでしょう」 「前回は7だったな。そいつは何番目だ、セイン」  腹部へ彫られた数字は、ファッションの一部にも見える。左右、上下ともに対称であり、数字の周辺には装飾が施されている。体自体がキャンバスであるかのようだ。  少年の指先が淀んだ肌に描かれた文字をなぞる。 「彼女は、13です」
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