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オイルの臭いを纏った水蒸気を抜け、車は塀の前に止まる。石が積み上げられて造られた塀は、長年の風雨と排気ガスにより黒く、濁った光沢を放っていた。
鉄格子の門が開かれ、中から人の波が打ち寄せる。尖った屋根の先端に備え付けられた鐘が、町に夕暮れを告げた。
「テメーがモタモタしてるせいでこんな時間じゃねぇか」
「おや。ルドベキアが咲いていますよ。たくましいですね」
「もうこれ以上、寄り道すンな!」
黄色の花たちに引き寄せられる細腕を掴み、ヨハンは声を荒げる。
人の流れに逆らい、男と少年は門をくぐった。黒い石壁は闇に沈む太陽の色に染まり、アーチ状の入口が2人を呑み込む。
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