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「どうして泣いてるの?」
きいちゃんが話しかけると、男の子は悲しそうに言いました。
「おばあちゃんが死んじゃった。ぼく、大好きだったのに」
きいちゃんは男の子がかわいそうになりました。
「悲しみを取ってあげましょうか?」
「悲しみを取ると、どうなるの?」
「悲しいことを思い出さなくなるわ」
「おばあちゃんのこと忘れちゃうってこと?」
「全部じゃないけどね」
「そんなのってないよ。おばあちゃんのこと忘れるなんて嫌だよ」
きいちゃんは男の子の頭を優しくなでてあげました。
「私のおばあちゃんもね、死んじゃったの。おばあちゃんが言ってたわ。
心が悲しみでいっぱいになると、楽しい気持ちや嬉しい気持ちが心に入れなくなるんだって。悲しみが心にあるうちは元気も出てこないんだって。
たくさん悲しんでもいいの。だけど、まずは元気にならなくちゃ。悲しいことは、元気になってから、ときどき思い出してあげるくらいがちょうどいいのよ。って」
きいちゃんは男の子の胸をガチャリ!と開けて悲しみを取り出し、男の子に渡しました。
男の子は涙をふいて、悲しみをぎゅっと握りしめました。
「ありがとう。この気持ちは大事に取っておくよ」
きいちゃんはその夜、おもちゃ箱の底から古ぼけた悲しみを引っ張り出しました。
悲しみを見つめていると、おばあちゃんとの思い出がひとつひとつ胸に浮かび、同時に、おばあちゃんがもういないことも思い出して、とても悲しい気持ちになりました。
きいちゃんは少しだけ涙を流しました。悲しみが、取り出した時よりもほんの少し小さくなったような気がしました。
きいちゃんは悲しみをおもちゃ箱に戻してベッドに入りました。
明日はどんなものを開けようかしら。そう考えているきいちゃんの顔はニコニコしていました。
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