悪魔と男

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 彼はまじめな悪魔であった。無遅刻無欠勤で就業態度も問題なく、いわゆる優等生な悪魔であった。  広くはない部屋にアラームが響く。目が覚めると身支度をし、いつものように出勤する。朝礼を終え、外回りへと出かける。今日もいつも通りの一日になりそうだ。  空から地上の様子をうかがう。昨日の雨のせいで置いていかれた古い傘をいくつか見つけたが、きっともう人間の視界には入っていないだろう。  人間に気づかれず、それでいて観察するに困らない位置を保つのは難しい。しかしもう慣れたものなので、違反した人間を見つけることは容易かった。 「お忙しいところ失礼します」  悪魔が声をかけると男は怪訝そうな顔をむけた。 「今タバコを捨てておられましたね?」 「なんのことだ」  ご覧のとおり、私は悪魔です。違反した方の取り締まりを行なっています」 「噂は耳にしていたが、本当にいたとは。しかし悪魔の仕事は、点数を引いて、死後の裁量の手助けをするだけだと聞いたが」 「他の悪魔は最低限の仕事しかしません。我々の業務はあくまで人間の不義を監視し、採点することだけですから。ですが、そのときに注意をうながせば、道は正されると私は思うのです」 「だからわざわざ俺のところへ喚起しに来たと。悪魔らしからぬやつだな」  男は吐き捨てるように言うと、その場を立ち去ろうとした。 「お待ちください、私はあなたに点数をつけねばなりません。悪い行いを正すと約束していただけるのなら、それを加味した点数にいたします」  悪魔は良い提案をしたつもりだったが、それが男の癇にさわったらしい。男は不愉快であることを示すように、悪魔を睨みつけた。
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