御堂刹那

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御堂刹那

「そしてガイコツたちは、自分たちの住む世界に帰り楽しく暮らしました。  おしまい」  刹那が読み終えると子供たちの拍手が鳴った。 「みんな、聞いてくれてありがとう。  次が最後のお話、幸千恵おばさんが読んでくれるよ」  刹那は幸千恵と場所を入れ替わり、後ろに下がって先に朗読を終えた遙香の隣に立つ。 「みんな、声が枯れていてごめんなさいね……」  そう前置きして幸千恵は朗読を始めた。 「かなりヒドいわね」  遙香と同じことを刹那も思っていた。  そして彼女たちを取り囲む子供たちの後ろにいる女の子に視線を向ける。  かなりハッキリ視えているが、恨みや憎しみなどは感じない。むしろ、感じるのは穏やかな喜びだ。 「大丈夫よ、あの子は何もしていない」  遙香の言葉に少しだけホッとした。まさかと思っていたが、彼女は幸千恵の病とは関係ない。  幸千恵は(いん)(とう)(がん)を煩っていた。  手術が成功しても声を失う、つまり彼女がこの朗読会をやるのは今回が最後だ。  彼女はそれをりりあに伝えたかったのだ。  もう『ハロウィン絵本よみきかせ会』は開かれていないということを。幸千恵がもうりりあに読み聞かせができないということを。  刹那の瞳に熱い物が溢れてきた。 「声を取り上げられたスズメたちでしたが、ぶじに声を返してもらい、再び屋根の上でさえずることができるようになりました」  幸千恵が選んだ絵本は、イタズラなスズメたちが神様に罰を与えられて声を失うという内容だった。  絵本ではスズメたちは声を返してもらえる。しかし、幸千恵の声は誰も返してはくれない。  りりあの顔が曇っているように刹那は感じた。 「おしまい。  最後まで聞いてくれて、みんなありがとう。  こんな声で本当にごめんなさいね」  子供たちの拍手が鳴り響いた。  そこにいる子供たちは、全員が元気に拍手をできるわけではない。でも幸千恵の覚悟を察したのかも知れない、それは力のこもった拍手だった。
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