松野幸千恵

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松野幸千恵

 また、ハロウィンの時期が近づいてきた。  松野幸千恵は例年通り『ハロウィン絵本よみきかせ会』であの病院へ行く、今年もりりあは聞きに来てくれるだろう。  だが、今年で最後にしなければならない。 「解りました」  と、依頼内容が記された書面から顔を上げ、芸能プロダクション社長の(なか)(がわ)(よし)()は隣に座る所属声優の()(どう)(せつ)()にその書面を渡した。  二人の後ろにマネージャーと紹介された(しん)(どう)(はる)()が立っている。  彼女は書面を覗き込むこともなく、全てを見透かすような瞳で幸千恵を見つめていた。  刹那も目を通してうなずき、 「それではこの仕事、お引き受けします」  と、答えた。  ここはプロダクションブレーブの応接スペース、幸千恵は仕事を依頼するためにここへ来た。 「松野さんと共演できるなんて光栄です」  刹那の言葉に幸千恵は微笑みで応えた。  ブレーブは女性タレントを専門にしているプロダクションだが、最近声優部門を立ち上げた。  そこに所属しているのはまだ二人だけで、一人は御堂刹那、もう一人は彼女の妹の()()だ。  朗読会はボランティアなのでギャラは出ない、彼女が依頼したのは浄霊だ。  御堂刹那は声優をやるかたわら拝み屋もしているのだ。  幸千恵は礼を言おうとしたが刹那が遮った。 「だいじょうぶです、お気持ちは解っています」  再び幸千恵は微笑んだ。  そしてブレーブを後にした。
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