37.5℃の熱情

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「どこの学校か一目でバレるのって、嫌じゃない?」 「むしろ便利よ。偏差値の高いお嬢様学校 の制服は、着ているだけで相手へ安心と信頼を与えるからね」 「……なるほど」 「それに、やましいことがないならバレても別に問題はないでしょう」       やましいことは現在進行形で重々あるのだが、と思ったところで、ななに手を掴まれた。  指を絡ませて、彼女はにやっと笑む。 「だから言ったでしょう、女子高生が二人でいる分には――咎められやしないのよ」  上気した頬でななは妖艶(ようえん)に告げた。  繋がないと言ったくせに。  熱に浮かされている。  ただの友情と、それを通り過ぎた感情は、ぱっと見、見分けがつかない。  ななは、その名の通りに7月生まれで、おまけに7日生まれだった。二週間ちょっと前に誕生日を迎えた彼女は、しかしよりによってその日、本命のカノジョが別の女と(ねんご)ろにしている姿を目撃したらしく。  盛大に()ねた結果、現在こうして、たまたま知り合った自分こと恵と浮気中である。  しれっと突飛な状況だけれども、女子校で同性ばかりの環境だと、同性同士の恋愛沙汰はそこまで珍しくもないようだった。まぁ、かく言う自分もそうだから分かる。  今のところ、ななとはまだ不純な交友ではないが、世間を揶揄(やゆ)したさっきの彼女の指摘はもっともだった。不純同性交友は異性相手よりステルスしやすい。 本命の彼女の代役であるところのめぐは、その役割に相応(ふさわ)しく、ななと当たり障りのない会話を重ねる。 「実家には帰らないの?」 「そのうち帰るけど。まだいいかな」  地方を出て、中学から都会の学校に進学して四年目。  帰らないほど嫌ではないが、長居するほど余裕はない。  地元は、思い出すことが、多い。 「8月になったら、お盆には帰るよ。お墓参りをしなきゃいけないし」 「そう。大変ね」  何の気なしに彼女は相槌(あいずち)を打つ。  知りようもない。話してなどいないのだから。  今年はあの子が死んで9回目のお盆だ。
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