37.5℃の熱情

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 思い返すまでもなく、初恋だった。  親に内緒で家と反対方向のエリアに道草をした。そこで出会ったあの子は、学校の友達とは違い、聡明で無邪気でたまらなく魅力的だった。  毎日のように一緒に遊んで過ごしたけれど、何故かあの子は学校に行っていなかった。  ある日、親が居ないはず日にあの子の家へ遊びに行き、あいつに遭遇してしまった。  力加減なしに躊躇なくあの子を殴る、父親であるはずの男の姿を。  庇おうとして飛び出して、一緒に自分も殴られて。あの子の悲鳴と、あいつの怒号と、痛みとで意識がない混ぜになって、気が遠くなった。  血まみれになったあの日のことは、正直よく覚えていない。それまで親には内緒の友達だったけれど、流石に親も巻き込む騒ぎとなり、もうあの子とは遊ばないように言われて、それから。  それから、ろくに会うこともないままに、あの子は死んだ。  持病があったから、などと聞かされたけれども。頭では納得しても、心では納得していない。  ――あの子は。あの男が、殺した。  以来。一般的な大人の男という生き物に、自分は否応なしに不信感を抱いている。  それでも中学に入るぐらいまではよかった。父親や学校の教師といった、日常で関わるごく少数の大人の男は、信頼関係が出来た後に警戒を解くことも出来たからだ。  しかし最近。それまで子どもだった同級生が、日に日に大人の男に近付いていき、これまでになく周囲に『男』が増えだしたことに気付いた時。  見慣れたはずの姿が大人になっていく姿に気付いた時、心底、ぞっとしたのだ。  憎いはずの存在がすぐ側にいると思うと、毎日、無性に腹立たしくなった。  だから、一緒にいるのはいつ豹変(ひょうへん)するか分からない得体の知れない男より、ふわふわして可愛い女の子がいい。  そうして、ななより前にも、何人かのカノジョを作った。  時には、そこにあの子の面影を求めて。  こうして、本命にあてつけたい彼女と、本命にかこつけたい自分が、二人で一緒にいる。  運命の人など探さなくても、凸凹は案外すんなりはまるらしい。
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