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一人でも生きていけるはずだった。
けれども、幼少期にぽっかり空いた穴は、十年近い歳月をもってしても一向に埋まりそうになかった。
無理もない。
他ならぬ自分が、あの子以外にさして興味を示していないのだから。
そんなようなことを歌った曲があったけど、なんだったっけ。前のカノジョに教えてもらったアーティストのやつで、確か薬箱というタイトルだった。何故か今、無性にあの歌が聴きたい。
のろのろ食べ進めたパスタの最後の一口を口に運ぶ。
そう、つがいがいなくとも命は続く。
ナイフが無くてもフォークは使えるし、スプーンが無くてもフォークだけでパスタは食べられるのだから。
ぼんやり思索にふけっていると、ななは何気ない口ぶりで言う。
「ねえ、めぐ。今から家に来ない?」
「家、って」
「今日、親いないの」
本当に、もののついでのような口ぶりで、ななは言った。
けれども、それは。
――なかなかどうして倒錯的だろうよ。
微熱のような7月の気温は、盛りのついた高校生にちょうどいい。
熱に浮かされた自分たちに、とても似つかわしい。
「ねえ。なな」
二人の他には誰もいない、彼女の私室の中。
さっきのカフェよりずっと近い距離で、ななに問いかける。
「本当は、分かってるんでしょう?」
いつだったか、ななに正面きって尋ねたことがある。
君はレズビアンなのかって。
そうしたら、澄ました顔でななは答えた。
――手の届くところに咲く花を摘む方が、楽だし安心でしょう?
外でどこの何者か分からない男を探すより、家柄も資質も一定の水準を保証された校内から探すほうが安心して恋愛できる。
これは遊び。
今の自分を満たすための、今だけの百合。
乙女の園にいるからこその、限られたブランド、恋愛ごっこ。
あぁ。なな、君の気持ちは痛いほど分かるよ。
自分だってそうだ。『今』を埋めてくれる、安心できる都合のいい誰かが必要なだけなんだ。
ただし自分の場合、どんどん男になっていく周りの同級生は、あいつを思い出して受け付けない奴が多いというだけ。校内で探すことのほうが面倒で。ななと違って楽はできず、外に繰り出す必要があった。
そこはまあ、仕方ない。手前勝手な欲求を満たすためなのだから。
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