0人が本棚に入れています
本棚に追加
すかすかになった空間に誰か居て欲しいという、誰か代わりになるあの子が欲しいという、本当に独りよがりな我儘。
二人とも、条件に合致するならこだわらない。
つまるところ、都合よく自分の隙間を埋めてくれる存在であれば。
男か女かすら、どうでもいい。
「俺に、悪者になれって?」
ロングヘアのウィッグを取って、低い声で囁きななを覗き込んだ。まだエアコンが効ききらない室内でつたう汗が、ぽたりとななの額に落ちる。
「さあ? なんのことかしら」
じっとり汗で張り付いた俺の短髪を見ても尚、ななはそう嘯いた。
微熱のような7月の気温は、盛りのついた高校生にちょうどいい。
体温だか気温だか分からない温度は、一線を超えたという事実を有耶無耶にして誤魔化せるから。
それにしても、暑い。
こんなんじゃ、外が暑いのか、俺が熱いのか、わかったものじゃなかった。
あーあ。
誰か、いないかな。
熱がなくたって、ただ君がそこにいるだけで、俺の正気をなくしてくれるような、ヒト。
ななを前にして、これが酷い思考だってことはわかっているけれど。
ななだってほら、どうせ似たようなことを考えているに違いなかった。
正気と狂気の間を彷徨い、ギリギリどうにか正気な頭で、どうしようもない狂気を装う。
こればっかりは、注射したところで治りそうにない。
だってほら、思考がグズグズなくらい、こんなにあついんだから。
俺たちが狂ったって、仕方ないよな?
最初のコメントを投稿しよう!