一話 吸血鬼、王国へ行く

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 口には出せないが、魔王様がこんなチャランポランだから他の魔皇があんな腑抜けに……。確かに力では俺が魔王様に劣ることは無いだろうが、貴方の強みはその頭脳だろうに。  バレぬように小さく息を吐いた俺は言われるがままに顔を上げ、片膝を着いた状態で待機する。  対面した魔王様は子供のような膨れっ面で――いや見た目はまるっきり子供か。  短く切り揃えられた真っ黒い頭髪に立派な二本の角。その右側の角に小さな王冠がぶら下がっている。くりくりと大きな金色(こんじき)の瞳にやんちゃ坊主のような、それでいて将来は確実に整った容姿になるだろうという顔つき。極めつけは玉座から足がブラブラともならない小さすぎる身体。王冠と王専用のサーコートさえ脱いでしまえばそこら辺の子供と見分けがつかない。失礼極まりないが、それほど幼く見えるという事だ。  先代魔王様が巨人族だった事もあり玉座が通常の数倍はある。そのせいで更に魔王様が小さく見えてしまい、メイドの中にはそれを微笑ましく見つめている者もいる。  魔王様は頬を膨らせると同時に息も止めていたようで、真っ赤な顔で溜めていた空気を口から吐き出した。 「で、だけど。儂がモスモスを呼んだのはとあるだーいじな任務を任せよっかなーと思ったからなんだけど」 「はい。薄々ではありますがそのような要件だろうと感じておりました」  逆に言えばそれ以外の内容で玉座の間に呼ばれるなんて勇者が別ルートから強行突破して来た時くらいだろう。実際にそうして侵入してきたのは二〇〇年程前に現れた女勇者くらいだったな。アイツは本物の勇者だった。 「おお、なら話が早い。まあ結論から言うとな――人間族の王国に勇者育てる学校があるみたいだから潰してきて欲しいのよ」 「――え?」  予想の斜め上――いや垂直の任務内容に思わず声が漏れてしまう。慌てて口元を抑えるが、魔王様はしたり顔で片肘をついている。
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