一話 吸血鬼、王国へ行く

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 それからあらゆる手続きを済ませ俺がいつでも王国に向かう事が出来るようになったのは玉座の間での出来事から一月程経った頃。  最初こそ生徒として潜入させられると思っていた俺だったが、実際はそうではなく〝教師〟として学園内の内部構造、及び勇者育成に当たるプログラム等の収集を行うとの事。それを聞いた時は思わずホッとしてしまったが、よくよく考えたら当たり前の采配だよな。  俺、どう若く見積もっても年端もいかない学生には見えないよな。  そんな事を笑い話に王都移住の手続き書類を持ってきてくれたメイドに話したところ、当初は学生として潜入させるつもりだったと魔王様が仰られていたと言っていて固まってしまったのは仕方のない事だと思う。  何はともあれ、決定してしまった事を今更どうこう言う気はないし、決まったからには存分に楽しませてもらおうと思う。何せ魔族が人間の国に住むことになるのだ。吸血鬼という種族は元々犬歯と紅い瞳、尖った耳以外人間と瓜二つだしそれらを幻影魔法で隠してしまえばバレる事はそうそうないだろう。 「えっとー……まずは採用試験から、だったか」  魔導機関車に揺られた俺は、メイドさんから渡された書類の一つに目を通す。幾ら魔王様と言えど、人間の世界に権力で物事を進めることは不可能だ。だからこそ出来る範囲でと手を回して下さったようで、試験における費用や王都での住まい、支度金等を全て用意されたようだ。本当にありがたい。  目を通し終えた書類をもう一度紐で括り直した俺は、それを異空間庫(マジックボックス)へ仕舞い外の風景を眺めて到着までの時間を過ごした。
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