一話 吸血鬼、王国へ行く

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   ***  私、ハルバ・ハイネは重苦しい溜息を吐いた。  今日だけで何回目だろうか。もう癖になってしまっていると言っても過言では無いだろう。  生徒に終了の合図を軽く済ませ、トボトボと教室を後にする。背後からは授業の後とは思えぬ凄まじい叱咤(しった)と罵声が今日とて鳴り響く。  馴れたことだとは言え、流石に心がポッキリと折れてしまいそうだ。  歩く度に鳴るヒールの音をBGMに、私はもう一度溜息を吐き出した。  ここはヘリオス魔法学校――。  ヘリオス王国王都付近に校舎を構えた世界でトップクラスと名高い有名な学校だ。  校舎は王都に存在する王城とほぼ同じくらいの大きさで、年に三人ほど行方不明者が出てしまう程膨大な敷地を誇っている。実際数十年前まで大貴族の屋敷として使われていたらしく、未だに隠し通路や隠された財宝なんかがチラホラ見つかる事があったりする。生徒の中には魔法ではなくそれを目当てにやってくる者もいるとかいないとか。  と、そんな巨大且つ有名な学校だからこそ集まる生徒たちは優秀な者が多く、教鞭を握る教師たちはそれを凌駕(りょうが)するほど力と地位がある者が殆どだ。  そうなってくるとやはり生徒にも教師にも貴族が大多数になってしまうのだが……私は教師陣で一〇人にも満たない、数少ない平民の出だった。それも奴隷として扱われる種族上位に組み込む〝ダークエルフ〟なのだ。更に言えば純潔なので滅茶苦茶罵倒される。  貴族が身分の低い者を蔑むというのは、いつまで経っても変わらぬ悪しき文化と言えるだろう。こんなことを言えば打ち首にされてしまいそうだけど。  とはいえ、私だってここの教師陣と同じく魔法の実力を学園長直々に認められて採用されたのだ。だからこそ奴隷落ちから早々に脱却し、自らの力だけで生きてこれたってのもあるし。それが自慢だったりするし。  コホン。少し取り乱してしまったが、とどのつまり何が言いたいかというと――私だって頑張ってるんだ! という事。
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