プロローグ この世は勇者で溢れてる

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(ようや)く此処まで来たか……」  重厚な鉄の扉。周囲は黒い外壁に密封されており、換気口になる窓などは見当たらない。仮にあったとてここから見下ろせる景色に趣など感じることは無いだろう。  そう感じた男――モブス・ギルターは腰に帯刀した剣の柄に手を掛け、背後に待機するメンバーへ声を掛けた。 「えぇ、本当に。だけどこんなところで気を抜かないでよ? 特にヌストー」  それに答えたのはとんがり帽子を被り大きな杖を手に持った女――マミー・キャバレオ。彼女は不自然に大きな瞳を針のように細め、自分の足元で胡坐(あぐら)をかいている男を見下ろした。  マミーの絶対零度とも言える視線を諸に受けた男――ヌストー・オレハは頭に巻いていた風呂敷をきつく巻き直し、ニヤリと(いや)らしい笑みを浮かべた。その表情は言外に〝任せておけ〟と語っており、彼を見つめていたマミーは安心したように息を漏らした。  彼ら三人が現在訪れている場所。それは言わずとも知れた悪の化身が住まう城――魔王城であり、彼らの目の前に佇む扉の先に待ち受けているのは魔王最強の僕と名高い〝三魔皇〟が一人、吸血鬼(ヴァンパイア)の始祖である。  ここに至るまで、既に二人の魔皇を倒したモブス達はこの吸血鬼を倒せば遂に魔王と対面することになり、いよいよ旅も大詰めと言ったところだ。現在まで様々な経験を経て授かった〝職業〟を進化させてきた三人は、自然と扉をみて喉を鳴らしてしまう。  大きな革袋からポーションを取り出したモブスは、それを一思いに飲み干すと顔を(しか)めて空いた瓶をその場へ捨てた。 「クソッ、いつまでもこの味には慣れないな」 「そんなもんよ、薬っていうのは」  同じくポーションを飲み干したマミーが苦い顔で返答を返し、胡坐をかいていたヌストーが立ち上がる。彼の口元を覆う髭に緑色の液体が付着しているが、誰もそれを気にした様子はない。
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