プロローグ この世は勇者で溢れてる

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「……よしっ準備も整った事だし――行こうか」  何もついていないが口元が気になったモブスがそう言って口元を(ぬぐ)い、開いているのか閉じているのか分からない瞳を光らせた。  それにマミーは「えぇ」と女性らしい笑みを浮かべ、ヌストーが腹に巻いた腹巻に親指を掛けベチンと音を鳴らす。  二人を頼もし気に見つめたモブスが身を(ひるがえ)し、背に揺らめく赤いマントが大きく宙を舞った。  彼らの中ではこれが〝始め〟の合図であり〝気持ちを入れ替えろ〟というモブスなりの配慮でもある。それを見たマミー、ヌストーの表情に力が入り、身体から蜃気楼(しんきろう)のようなものが発生した。これは可視化された二人の魔力だ。  気合充分の三人に死角はない。彼らの実力は数時間前に対峙した二人の魔皇が示してくれた。  もう迷う事など無いのだ。  モブスは歴戦の戦士然とした顔つきで重厚な扉に手を掛け――。    ***  俺――モス・グリムノワは吸血鬼(ヴァンパイア)の始祖と呼ばれている。更にはありがたい事に魔王様直属の部下として三魔皇の一人に抜擢(ばってき)され、今では魔王様が待機された玉座の間に最も近い一室を頂いて業務に(はげ)んでいる。業務と言ってもそんな大それたものはなく、山のように持ち込まれる書類の整理と――勇者の撃退ぐらいである。  魔皇なんて名ばかりであり、土地何て貰えないし給料は時給銀貨三枚。魔族が憧れる仕事ランキング上位に組み込んでいるだけあって給料は良いかもしれんが、それでも……ねぇ。せめて月給にしてもらいたいところだ。  それも俺の先輩に当たる残り二人の魔皇だが、これが死ぬほど使えない。書類整理させたら紛失するし、勇者は止められないし、そのくせ無駄に踏ん反り返ってるし……。更には魔王様お気に入りのメイドに手を出したとかなんとかで魔王軍内の序列を落とされて、その八つ当たりに何故か俺に仕事振ってくるし。  まぁ、何が言いたいかといいますと――。
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