1人が本棚に入れています
本棚に追加
それもパーティーのお二方はリーダーが殺されたというのに警戒レベルも上げず、終いには殺された仲間を助けに行くという無駄な行為。
俺は泣き叫ぶ女と未だに睨みつけてくる泥棒を一瞥し、もう一度溜息を吐いて片付けてしまった書類を再度浮遊魔法で机に戻した。仕事の再開だ。
「ッ!」
流れ作業とも言える押印を素早く続けていると、泥棒男が俺に攻撃を与えるべく踏み込んできた。瞬間的に此方へ移動して来たことを考えると、恐らく縮地と呼ばれる移動系魔法の一種だろう。見た目が泥棒であっても勇者パーティーとしての実力はあるというわけか……最低限、だが。
しかし、泥棒男は俺との距離残り馬一頭分を残して何かにぶち当たったように立ち止まった。思わず口角が上がる。やはり能力としては最低限だったようだ。
「あぁ、言い忘れていたが。俺は常に自分の周りに魔法障壁を展開している。直接攻撃を与えたいのであれば、最低限それを相殺する何かを身につけてこないと無理だぞ」
俺は小馬鹿にするように半笑いで印鑑を男に突きつけてそう言った。
此処まで辿り着くことの出来る勇者パーティーなら障壁系を解除する魔法を使える魔術師がいて可笑しくないだろう、普通であれば。現に今まで訪ねてきた勇者の九割以上が何かしらを用いて俺の障壁を破っている。手加減もしているし、当たり前と言えば当たり前だ。
もしかすると勇者よりこの泥棒男の方が強いのでは? そんな好奇心が芽生えた俺は印鑑を机に置き、手を組んで男の出方を窺う。
「……お、オデはこいつ等と無関係でふ」
「――は?」
「いっいや、だから。オデは! オデはこいつ等と無関係なんでふよ! む、無理やり連れてこられただけでふ!」
「あー……」
「ちょっ! ちょっとヌストー! あんた何考えてんの!?」
先程までの真剣な表情は何処へ。泥棒男――ヌストーはせかせかと頭に巻いた風呂敷を取ると、武器にしていたであろう短刀を懐から取り出して同時に床へ投げつけた。
最初のコメントを投稿しよう!