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「…………」
「違う違う違う違う――」
奴らの前で立ち止まった俺の周囲には既に障壁など存在していない。仮にも女が本当に魔術師であるならば、この隙を見逃すはずがない。無防備に歩いてくる俺に何かしら魔法を叩き込めただろう。しかしそれも無い。完全に心が折れて敗色に染まってしまったか。
返答も何も返さない女の顔は死霊のように血の気がない。これは放っておいても勝手に死にそうだな。
思わず笑いそうになり口元を手で隠す。
「まぁいい。何かしら返答したところで結果は変わらんからな。それでは――」
「え――――」
「ちが――――」
刹那。女と勇者の身体、ヌストーが挽肉のように潰れ扉に張り付いた。痛みも何もない、最も幸せと言える死に方だろう。後に残された者にとってはトラウマものだが。
俺がやったのは只魔法障壁を展開しただけ。但し、術者以外はその範囲から強制的に弾き出されるといった効力をもつものだ。結果は先程の通り。
勇者パーティーの残骸を獄炎で跡形もなく消し去った俺は、白拍手とという消滅魔法で血痕、飛び散った肉片、その他諸々の汚れを消し去って仕事机へと戻っていく。
やることは先程と変わらない。只々魔王様から送られてくる書類に印を押し、訪れた勇者たちを跡形もなく消し去る。
これは必要悪であり、ただ俺の趣味でやっている殺しではない。魔王様に挑むに相応しい人材の選別。人間族、又は亜人種の未来を担う英雄の仕分け。
こればっかりは何と表現しようが〝殺し〟である事に変わりないのは認めよう。しかし、しかしだ。俺は、というか俺達はこれだけは言いたい。
それは――。
ガコンッ!
「我は勇者ミツルギ! 貴様を倒すえ――」
――この世は勇者で溢れている。溢れすぎているのだ。
続けざまに現れた勇者の首を、また一つ刎ねた俺は、重苦しい溜息を吐き出し書類を棚へ戻した。
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