429人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
そこで急に一砥が笑い、花衣は「どうしたんですか」と訊ねた。
一砥は声に笑いを滲ませて、「初めて君を家に泊めた日のことを、思い出した。即席で肉うどんを作ってくれただろう。あれがすごく旨かったなと」と言った。
花衣は照れと嬉しさに顔を赤らめ、「あんな簡単なの……、一砥さんが食べたいと言えば、いつでも作ります」とわざとぶっきらぼうに答えた。
「そうか。ならまた近々作ってもらおう」
「はい」
たったそれだけのやり取りだったが、花衣はすっかり機嫌を直し、笑顔で通話を終えた。
そこでふと顔を横に向け、「わっ」と声を上げる。
いつの間に起きたのか、亜利紗が戸口に茫とした顔で立っていた。
そして亡霊のような白い顔で、言った。
「お腹……空いた……」
その呑気な台詞を聞いて、花衣は大きく噴き出した。
最初のコメントを投稿しよう!