惜しからざりし命さへ ①

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惜しからざりし命さへ ①

 この地に来て数週間になる。  こういった土地の人間は外部からの来訪を厭うものと聞いていたが、この地に限ってはそういったことはなく、こちらが困惑するほど手厚いもてなしを受け続けている。いい加減申し訳がなくて幾度かその旨を申し伝えたところ、訪問当初ほどの厚遇はなくなったものの、それでも屋敷の中で最も条件が良いであろう部屋を宛がわれ、決して足りているとは思えない生活の中から可能な限りの食事を運ばれ、正直な話こちらが困惑してしまう程だ。  いたたまれず早々にこの地を辞そうとしたものの、是非にと引き止められ今に至る。恐らく彼らは何らかの理由で―――以前文献でだけは見た事がある。異邦人を財をもたらす神として丁重にもてなす文化を持つ処があるという話―――自分を此処へ留め置きたいのだろう。恐らくそれはこの集落の上層の者達が強引に決めた結論であり、その他決定権を持たぬ人々からは良く思われていないというのは十分に肌で感じる。故に、この屋敷の者の同行無く外を出歩く事を禁ずることのみ、きつく言い含められていた。     
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