第一章『ようこそ地獄へ』

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第一章『ようこそ地獄へ』

 深く、深く息をつく。  どうして、だとか。なんで、だとか。  口に出しては消えていく言の葉を拾って嘲笑(あざけわら)う男に、背筋が冷えた。この、男は分かっていたのか。わかっていて私をここに…この場所に連れてきたのかと。  「ようこそ地獄へ」  甘く蕩けるようなその顔に愛おしい者を愛でるように柔らかい笑みを浮かべ、真っ赤な血の海に立ち(すく)む私の手首に、黒い…手枷(てかせ)()めた。  私は、嵌められた。この男に、この茶番に、この世界に。無情ではなかった。優しくもあった。ただ全てが偽りであっただけで、世界は親切そうに私に微笑み壊しにかかってきた。  もう、枯れたと思った涙が、頬を伝うのを男は幸せそうに見ていた。
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