第1章

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「それじゃあ始めから」 閉めきった音楽室の中。顧問の鷲見(すみ)先生の振り上げた指揮棒に合わせて、それぞれ一斉に持っている楽器を構える。 ここは公立青羽中学校。街の中心に位置し、地域に根差した所縁のある学校だ。 今は5月に行われる定期演奏会に向けて、吹奏楽部の合奏が行われている。部員全員が、熱意のこもった旋律を響かせていた。 華々しく音色を響かせ一曲丸々演奏し終えると、満足そうに鷲見先生は頷き。 「よし、今日はここまでにしよう」 そう言って部長に目配せした。終わりの合図だ。 「起立! 礼!」 「ありがとうございました!!」 部長の号令で一斉に顧問に挨拶。今日の全体練習が終わりを告げた。 「おつかれ廣瀬、この後予定ある?」 譜面台を片付けながら、ホルン担当の中尾智宏(なかおともひろ)が声をかけてきた。 「おつかれ。今日はこの後クレアン楽器に行くよ。頼んでおいたバルブオイルを取りに行くから」 そう言って整備を終えたトランペットをケースに直し、俺は鞄に譜面入れをしまう。 「マジかー。今からみんなで焼き鳥食いにいくつもりだけど、良いのか?」   吹奏楽部においては数少ない男子部員。必然的に仲良くなる俺達は、練習後に連れ立って遊びに行くことが多かった。 「良いよ。今回はパスで」 さすがに頼み事を無視して遊びに行くなんて真似はできない。今日はお断りしておく。 「わかった。みんなにゃ伝えとく」 残念そうな中尾に詫びを入れて、自分の片付けを終えた俺は整列しだした部活メンバーに混じって部長の到着を待った。
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