第1章

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「こんにちは」 賑やかな商店街の一角、クレアン楽器店の中に入ると。 「いらっしゃい! 来たね湊くん。例のバルブオイル届いたよ」 陽気にギターをかき鳴らしながら、店主の相太さんがこちらにやってきた。 「すいません。これだけのためにクレアン楽器さんを利用してしまって……」 「いいのいいの。本来備品関係は学校側が委託した業者に一括して注文するのを、わざわざ僕のところから頼んでくれてるわけだからね。むしろ感謝してるよ」 まあ、君の注文する商品はむしろ学校側のカタログには入ってないだろうから、僕らみたいなところでしか仕入れできないと思うけど、とは相太さんの談。 「それにしても、やっぱり高いのばかり揃ってますね~。凄いな……」 色々な楽器屋に足を運ぶたび、今の自分には信じられないような値段の楽器がズラリと並んでいる。まさに宝の山と言っていい光景だ。 「今の君には手が届かないだろうね。だけど、プロの世界ではこれくらい普通さ」 100万円近くする楽器が普通!? やっぱり、大人の世界はワケが違うな……。 俺が余りの次元の違いに震えていると。 「ほら、頼まれたバルブオイルだよ。しかし多いね。1人で4・5本も頼むとは」 「いえいえ、仲間の分も一緒に頼んでるだけですよ。俺1人じゃさすがに使いきれません」 背負っているトランペットを尻目に、俺は苦笑いを浮かべた。 何だかんだ、学校指定のものではない珍しさがウケて、密かに頼んでほしいとせがんでくるメンバーがいた。もちろん、品質も折り紙つきなんだけど。 「どうだいトランペットの調子は。おかしくなったりしている部分はないかい?」 「今のところは。良く鳴ってくれますから、むしろ自分の未熟さばかりが目立ってますよ」 頭をかきながらこれまた苦笑。まだまだ荒削りな部分が目立つ自分の吹き方を、反省する毎日である。
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