第1章

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「ただいまー」 「おかえり」 あの後、寄り道もせずさっさと家に帰った俺は、母さんへの挨拶もそこそこに自分の部屋で日課の筋トレを始めた。 意外に体力を使う吹奏楽。文化系の部活ながらスポ根精神も求められるこの部活では、毎日30回の腹筋と背筋が課せられていたりする。 ただ、我が家は俺を除いてスポーツ一家のため、30回とはいわず100回を目安にトレーニングすることを命ぜられている。正直勘弁してほしい。文化系に、そんな体力はねえ……! しっかしそんな思いも虚しく、日々追い込まれていく身体はそれに適応し始めていた。これにはさすがの本人も驚きである。人間やればできるようになるもんだな~。 そんなこんなで筋トレを終え、風呂場に向かうところで兄ーー鷹幸(たかゆき)に出くわした。自分でも思わず顔が強ばる。 「ただいま……」 「おう」 すれ違い様にそれだけ言葉を交わして、鷹幸は自分の部屋に戻っていった。何とも言えない気持ちになる。 野球部とあって大きく遠い背中に、歯がゆい思いを抱くことしかできない。 「どうしたの?」 「ううん、何でもないよ」 廊下で立ち尽くす俺を不思議に思った母さんが尋ねてくるけど、気にしないでと首を左右に振ってごまかしておいた。
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