第1章

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翌日。体育館では、定期演奏会本番を想定した練習を行うため、ステージ設営を行っていた。 「椅子持ってきて~!」 「それもう少し右!」 心なしかみんなの表情も明るい。もちろん自分自身もいつもより笑顔だ。早く全曲を通して演奏したくてたまらなかった。 「廣瀬くん、ティンパニ運ぶぞ」 一旦、音楽室に戻って譜面台を運んでいた俺に、背後から声がかかる。 「はい! ……って、脇谷(わきや)先輩大丈夫ですか? 具合悪そうですけど」 俺に声をかけてきた3年の男子部員、脇谷圭次郎先輩はなぜか顔色が青ざめていた。 「いや、別に大丈夫。少し腹が痛いだけだから」 「本当ですか? 無茶しないでくださいよ」 男子部員ながらこの部活での数少ない良心。線は細いながらも物腰柔らかな姿勢で、密かに女子部員から人気がある。俺も色々とお世話になっていたので、かなり心配になる。 「ははは。廣瀬くんに言われちゃ、世話ないな」 無理矢理だとわかる笑顔を見せてくるこの先輩はいつもこうだ。優しいのは後輩として凄く嬉しいけど、だからってこんな形で無理をされるのは見ていられない。 「中尾! 脇谷先輩と交代してくれ! 先輩は少し休んでてください」 ここは強引にでも交代させよう。機材を運んできた中尾に声をかけた。 「よしきた! 先輩代わりまーす!」 「いや、大丈夫……」 「とか言いながらふらふらしてるっしょ? はいはいはいはい。ごめんけど、先輩を保健室に連行して?」 彼はティンパニを掴む脇谷先輩を瞬時に引き剥がし、近くの後輩女子部員にパスしてみせた。鮮やかな手際に思わず唸る。 「っしゃ、行くぞ」 にこやかに笑う中尾に同じく笑みを浮かべた。本当にこういうとき助かるよ。 「ま、待っ……」 「先輩、駄目ですよ~」 背後で脇谷先輩のか細い声と、女子部員の声を聞きながら、俺達は体育館に戻っていった。
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