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電力会社の若者が暫く待つと、白衣の彼は、奥の部屋から小型のガス・クロマトグラフィーを持ってきた。
「この針がもし左に振れるようなら、酸欠ということになるから、注意して歩きなさい」
「じゃあ、ちょっとお借りします」
懐中電灯を手にした電力会社の彼と、白衣の彼は、灯りの無い地下室へと歩みを進めた。階段の突き当たりには、古風な木製のドアが付いていた。空気は、洞窟のような湿気を帯び、冷たい。
「この扉、開けますね」
「針が振れたら、注意しなさい」
扉の向こう側は、十畳ほどの広さがある地下室だった。そこには、何やら得体の知れない銅製の装置があった。ウイスキーの蒸留に使うにしては、蒸留用の筒が上に向かって伸びていない。その装置は、供給された電力によって静かに唸りを上げていた。装置の銅板と銅板を止めるリベットにはべっとりと緑青が付き、半分錆びかかっていた。 二人は息を呑んだ。何に使うものか分からない電動のそれが、微かに唸っていた。分電盤にあった謎の活線。その電力は間違いなく、目の前にある巨大で得体の知れない装置に供給されているものだった。
「酸素、大丈夫ですか」
「薄いが、命に別状はないだろう」
「な、何なんでしょうね、これは……」
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