古風な薬局の意外な地下

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古風な薬局の意外な地下

 横浜市青葉区青葉台――新興住宅地の一角に、コンクリート製の薬局とおぼしき、年代物の店舗がある。一見、蛙や象のマスコット人形が置いてあったり、栄養ドリンクの冷蔵ショーケースが、店の外からも見えるので、あ、やっぱり薬局なんだなと、誰にでも思われやすい。  ただ、店の名前が一風変わっていた。そう! 薬局とは世を忍ぶ仮の姿。その名も「村上理化学研究所」である。何だか、名前負けしているようだが、ここを研究所と思って、目をこらしてよく見れば、なるほど、どうやらここは研究所なのかも知れないのだ!  ある日の昼下がり。つなぎの制服を着た、まだ20歳代とおぼしき、関東電気保安協会職員が、軽ワゴンから降りてきた。元気はつらつ、非常にエントロピーが高そうな青年である。 「こんにちはー、関東電気保安協会ですがー!」 「はい……?」  店の前を掃除していた白衣の老人男性は、うつろな目をしていた。元気な職員の呼びかけに対し、白衣の男性は、極めて低エントロピーな声で応えた。 「あ、お店の方ですか、関東電気保安協会です!」 「……電気温水器は間に合ってますが」 「温水器じゃないです」     
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